親しくさせていただいている方と立ち話をしているとき、髪の毛の話題になりました。どうやら、その方の若い知人が髪の毛のことで真剣に悩み、すっかり引っ込み思案になってしまったらしい。植毛だのかつらだの色々試したらしいんですがうまくいかず、人前で話すことが苦手になってしまったとか・・・。なんでわたしと話している最中に、髪の毛の話題に移っていったのか、それは定かではありませんが、その方の目線が、わたしのおでこあたりにじっと注がれていたことだけは確かです。
結論から言えば、気にせんとこ!というアドバイスしかありません。それに、ものすごく高いかつら(東南アジアなどで、超低賃金労働で作らせて、高く売るということも腹立たしいし)につぎ込むお金は、もっと楽しいことや、人のために役立つことに使ってほしいですね。
「どれだけ深刻に悩んでるか、アンタわかってないんや!」
という方もおられるでしょう。それでも、その自分を受け入れるしかないやないですか。
かくいうわたしも、すっかり頭髪が寂しい状況。若い頃にはそれなりに気になりました。
開き直って早幾年。開き直ったら強いもんです。
3〜4年位前に、仲の良い小学生の子どもがわたしの似顔絵を描いてくれたんです。
上手に描いてくれて、よう似てるんですわ。でも、初めて見せてもろたときに、思わず自分で爆笑してしまいましたで。それは、・・・髪の毛がほとんど描いてなかったことなんです! メガネもかけてますし、ちょうど波平さんみたいな感じになってますね。
「う〜ん、子どもの目にはここまで毛がないように見えるんか〜。子どもの目は誤魔化せんなぁ」と感心することしきり。
(このページの今年の2月にわたしの写真も載っているので、とくとご覧アレ)
毛がないのは、母親の家系ですな。
わたしのおでこや頭全体の感じが、母方の祖父や叔父とそっくりなんですわ。2人とも故人ですが、叔母もわたしを見ては
「あ〜、お父さんが帰って来たった〜!」と涙声で言うんです。
なんやらうれしいような、哀しいような、背中の辺りがもぞもぞ、すーーっっとするような・・・。
「おっちゃん、背中におぶさってんのかなぁ」と、ちょっとびっくりしまっせ。
「髪は、長〜い友だち」というコマーシャルがありました。
わたしの友だちは、短い付き合いで次々に去っていったようです。殺生やなあ。薄情やなあ。いや、髪の毛だけに、薄毛(はくもう)やなあ。
この頭髪が思わぬ事態を引き起こすことも・・・。
あれは東京に引っ越してきて、そんなに経ってないある日のこと。
以前は、格安散髪屋で済ませていたわたし。わたしが通っていた格安のところは、安かろう悪かろう。
でも、そんなにご大層な髪の毛やなし。この値段の方が魅力や! とせっせと通うてました。
東京に来たら、右も左も分からず、近所に格安のところもなかったものですから、まず一番近い散髪屋へ。
これがものすごく丁寧なんやけど、時間がかかるかかる。
2人が散髪台に座って、3人がソファで待ってたもんやから、「これは順番がはよまわってくるやろ」と店に入って待ってたら、待てど暮らせど一向に終わっていかん! なんと、最終的にわたしの散髪が終わるまで、延々6時間待ってました〜!
(連れ合いは、散髪が終わって映画でも観にいったのかと思うたそうです)
時間がかかるはずですわ。ようやく私の番が来てすわったら、
「まず前髪をどのようにしますか? このカタログを見て選んでください」
「次に、うしろのすそをどのようになさいますか? 今度はこっちのカタログを見て選んでください」
「もみあげはどのようになさいますか? もみあげのカタログはこれから選んでください」
前髪くらいは「ほな、これにして!」とか答えてたんですが、あまりにカタログを見せながら「選べ選べ」とあれこれ言うもんですから、しまいに嫌になってしまいまして、
「どうでもよろしい。そんなご大層な髪の毛やなし。前髪だろうが、すそやろうが、もみあげやろうが、全部短く切ってしもて! カタログって、これに掲ってる人ら、み〜んなかっこええモデルばっかりやんか。少なくとも、こんな風にだけはなりとうないですわ」
かわいそうな、親切なおじさんは、困ってしまったようです(すみません)。
「ここは、丁寧なんはええけど、時間がかかりすぎるし、モデルを目指してるんとちゃうんやから、あれこれ聞かれても「どうでもええです」しか答えられん。
ぼくには合わんなあ」
そこで、次の散髪屋を探して、また飛び込みで新しいお店にいったとき、事件は起こりました・・・。
「ああ、髪の毛が伸びて鬱陶しい。耳にかかってんのも、襟首にかかるのもうっとうしい。あっ! ここ初めてやけど、入ってみよ! ちょうどええ、空いてる〜」
「いらっっしゃい。お客さん、初めてですね」と、わたしの父親くらいのおじさん。
「お客さんをよう見てはんなあ。初めてやとわかるんやなあ」
と感心しながら、早速散髪台に座ります。
おじさんは、初めての客にニコニコと愛想を振りまきながら、
「どんな感じにしますか?」と聞いてきます。
「全体に、短こうしてください」
「お客さん、関西の方ですか?」
「今の一言でわかりますか?」
「ええ、すぐわかりました。どこのご出身です? わたしは東京下町の生まれで・・・」と、話はつきません。
話す間にも、手は休めず、準備を整えていくおじさん。さすがベテラン。すっかり安心したわたしでした。
両手でわたしの頭を支え、大きな鏡をじっとみつめたそのとき、事件は起こりました。
しばらく鏡を見つめた後、やおらおじさんは、こう言ったのです。
「う〜ん、お客さん、前髪だけどこかで切ってきました〜? ちょっとバランスが悪いですねえ」
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「おじさん、前髪だけどっかの散髪屋で切ってから、また他の散髪屋に行く人おりますかぁ? これねぇ、地毛です。前髪は、切ってきたんやのうて、もともと少ないんですわ。ほかの部分の髪だけ、伸びたんやね」
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「すっ、すみませんででしたた。き、きょうはは、お天気が良くて、よかったですねえ」
「雨降ってますけど」
「いいいやぁ。そうですかかか。ずっと部屋の中におるものですから、はははは。
さてと、・・・」
慌ててはさみを取りに行くふりをして、その場を離れたおじさんでした。
わたしは、一生懸命お客さんと話をしようとして余計なことを口走り慌てているおじさんを見て、「このおっちゃんやったら、正直もんや。間違いない。仕事も丁寧やろ」とすっかり気に入り、それ以後ずっとその散髪屋さんを使ってます。
今は息子さんに代替わりしましたけど、先日も臨時休業日やとしらずに行ったわたしを、快く店に入れて散髪してくれたんは、このおじさんでした。戦時中の話なんぞをあれこれしながら、気持ちよく散髪してもろたんです。
長〜い友だちは去っていきましたが、また新しい友達もできますな。
今日の格言。
捨てる髪あれば、拾う髪(神?)あり |