「危うく、入学辞退に!!」第4幕
寝過ごした上に、入学金を持ってらず、「何もかも終わった」状態のヨネやん。
「アカン、もうアカン・・・」茫然自失・・・。
力なく肩を落とした瞬間、目の前の学生課の係りの方が言いました。
「あきらめるのは、まだ早い! しっかりせんかい! ぼく、これだけ持ってるから」
と、財布の中身を見せてくれます。その方が続いて、叫びました!
「誰か、お金貸してくれへんか? この子が入学できんようになる!」
なんと、周りの大学職員やら教授やらに大声で、助けを求めてくれたのです。
「なんや、なんや、どうした?」
次々に人が集まり、くだんの学生か職員さんから事情を聞くなり、「よっしゃ! オレはこれだけある」
「ぼくもこれだけあるで」
なっ、なんと! 次々に、お金を出してくれるやないですか。
「ほんま、すんません」
すっかり青菜に塩。しょぼくれたヨネやん。
世間の風は、冷とうない!
世間様の ありがたさが 身に沁みる奈良の春
その職員さんの親切は、それだけに終わりません!
「よしっ! これで揃うた。後は、手続きや。もう、時間がないぞ。もっと、早う来たらええのに」
「すんません・・・」
もう、小さくなって、一寸法師状態です。
「まあ、ええわ。こっちで、入学手続きしてる間に、他の手続きを済ませてしまお! おーい、みんなこっちに来てくれ!」
ほんまは、番号が釣り下がった机を順番に回って、色んな手続きを済ませてしまわなアカンのです。
そやけど、時間がない。
もともと、ぎりぎりに飛び込んだのに、「あわや、入学辞退」という騒ぎで時間を取り、もう他の手続き所は店じまいを始めています。
番号札を取り払って、机をたたみ、金庫を閉めて・・・。
その人たちが「おーい、みんなこっちに来てくれ!」
という係りの人の声に反応し、次々に私の周りに集まってきました。
「書類をまず全部書いて」
「お金は、いくら持ってる?」
「お金を全部出してくれたら、こっちで清算して領収書を出すから」
「そっちはいくら? お釣りは?」
そら、心無い人が集まってたら、わたしが机の上に残らず出したお金を誤魔化す人もいるかもしれませんし、おつりを間違える人もいるかもしれません。
でも、後で落ち着いて計算したら、1円も狂っていなかったのです。
もちろん、不必要な手続きもしていませんでした。
「みなさん、ほんま、すんません」
ただ小さくなって頭を下げるしかない、18歳の未熟な私。
入学式は、とっくに始まっており、いや、始まっておりどころか、もう終わりそう・・・。
「よしっ!これで、全部終了や。無事、入学できたで!」
「ありがとうございます!」
もう、泣きそうな顔をしていたでしょう。
ほっとして、なんやら頭がくらくらします。
極度の緊張が緩んだせいか、はたまた夕べの二日酔いか・・・。
そして、ハタと気づきます。
・・・さっき、ぎょうさん人が来てくれてお金を貸してくれたけど、誰が、なんぼ貸してくれたんやろか。
しもた、何にもメモしてない。返せへんやんか!・・
・・
「すみません、だれにいくら返せばいいのでしょう?」
「ああ、大丈夫、こっちで控えてるから。僕のところに持ってきてくれたら、後でみんなに返しとくから」
何から何まで。ほんまに、すんません。
こうして、無事大学に入学できたわたし。
あのときの学生課のAさん。ほんまに、ありがとうございました。
Aさんのお陰で、入学できたんです。ぼくを起こして、自転車で運んでくれたB先輩も、ほんまにおおきに。
みなさん、お世話になりました! ありがとうございました。
問題は、そういう人様から受けた親切を、私が他の人にきちんと返せているか、ということです。
その当のご本人はもちろんですが、自分が受けた恩はまた別の人に返して行かんと、人生の帳尻が合わんようになる、と思っているところです。
でも、まだまだ修行がタリン!
さて、その後、大学生協の中にあった公衆電話から母親に電話し、お金の不足と親切な人たちからの借金を報告。
銀行口座も持っていないわたしだったので、次の日早速、なけなしのお金を持って、母と妹が奈良くんだりまでやってきました。
ついでに、男子寮も見学。
この時の記憶から、「ヨネは、入学式に母と妹を連れてきた」と勘違いしている先輩もいたのです。
先輩、その勘違いはおかしいで。
なんでや言うて、入学式の前の日、ぼくにお酒を飲ました一人が、ほかならぬ先輩やから。
1人で、泊まってましたやろ?
こうして入学式の出席しなかったわたしのことを、よーく覚えていて、2年以上後にぼくに雷を落とした教授もおられましたが、その話はいずれまた。
(「危うく、入学辞退に!!」の巻 これにて、全巻の終わりでございます)
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